以前より多くの株式ファンドに携わらせていただいておりますが、株式への投資を目的としたファンドの組成を検討しているというお問い合わせがここ最近連続してありました。
多くは投資事業有限責任組合という形式のファンドで、ベンチャーキャピタルファンドのような非上場株式への投資を目的とするいわゆるプライベートエクイティファンドの組成において用いられています。
そこで、今回はこの投資事業有限責任組合の特徴や留意点について確認しておきたいと思います。
Contents
1.投資事業有限責任組合とは
投資事業有限責任組合とは、投資事業有限責任組合契約に関する法律によって定められた組合をいい、一般的にはLPS(Limited Partnership)と呼ばれています(以下、LPS)。
2.投資事業有限責任組合の特徴
LPSは法人格を有しておらず、組合の財産は組合員の共有となります。そのため、 LPS自体が納税義務の主体とはならず、各組合員に対して所得税または法人税が課されます。これをパススルー課税といいます。
LPSの組合員は、無限責任組合員(General Partner;以下、GP)と有限責任組合員(Limited Partner;以下、LP)から成り立っていて、それぞれ少なくとも1名以上でなければなりません。
GPは、文字通り組合員が無限の責任を負っています。たとえば、LPSが銀行から借入れをしたけれども返済できなかった場合、GPが連帯してその弁済をしなければなりません。
これに対して、LPは投資した額までの責任を負い、それ以上の負担はありません。LPが投資した額が毀損をして出資の払い戻しがゼロになってしまう可能性はありますが、それ以上の負担を強いられることはありません。この点は株式投資と似ています。
また、LPSが組合財産の分配を行う場合、貸借対照表上の純資産を超えての分配はできません。これは、LPSにはGPだけではなく有限責任のLPが組合員として存在するため、仮に無制限の分配を認めてしまうと組合に対する債権者の保護が図れなくなるためです。
その他にも、GPは事業年度経過後3か月以内に財務諸表を作成してこれを5年間主たる事務所に備え置かなければならず、その際、組合契約書のほかに公認会計士または監査法人の意見書も添付する必要があるなど情報開示について厳格な規定が設けられています。
また、LPSは、事業や名称、組合の事務所所在地、組合員、GP・LPの別などに関して登記をしなければなりません。
3.投資事業有限責任組合の投資対象
上記の通り、LPSは投資ができる対象を法律で制限をしており、具体的には投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条にて次のように列挙しています。
① 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有
② 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有
③ 金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第1項各号(第9号及び第14号を除く。)に掲げる有価証券(同項第1号から第8号まで、第10号から第13号まで及び第15号から第21号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第2項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令で定めるもの(以下、指定有価証券)の取得及び保有
④ 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有
⑤ 事業者に対する金銭の新たな貸付け
⑥ 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治32年法律第48号)第535条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有
⑦ 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)
⑧ 前各号の規定により投資事業有限責任組合がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業
⑨ 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資
⑩ 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの
⑪ 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分又はこれらに類似するものの取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの
⑫ 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用
⑦を見ますと、「著作権」への投資が許されておりますので、音楽や映像、ゲームといったいわゆるコンテンツファンドへの投資をすることも可能とされています。
また、⑧でLPSが投資している先の「事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業」も含まれていることから、コンサルティティング事業への投資も行うことができます。
4.任意組合との違い
4.1 任意組合とは
任意組合とは、出資者が出資をして共同の事業を営むことを約束することにより成立する組合で、民法によって規定されています(民法第667条)。そのため「民法上の組合」と言われたりすることもありますが、実務では任意組合の名称から「NK」と呼ばれることの方が多いです(以下、任意組合を「NK」という。)。
4.2 LPSとの共通点
LPSとの主な共通点は以下の通りです。
・組合員は、自然人でも法人でも構いません。
・組合の財産は、組合員の共有に属します。そのため、組合員は、組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができません。また、組合員は、組合財産である債権について、その持分についての権利を単独で行使することができません。
・出資契約等で損益分配の割合を定めなかった場合、その割合は各組合員の出資の額に応じて決まりますが、損益の分配を各組合員からの出資の額と異なる割合に応じて行うことも許されています。
・いずれも法人格は無いため、納税主体とはなりません。納税はパススルー課税として各組合員が行うことになります。
4.3 LPSとの相違点
LPSとの主な相違点は以下の通りです。
・LPSは登記を要しますが、NKは要しません。
・NKは労務を出資の目的とすることができますが、LPSはそれを認めていません。
・NKはGPのみで構成されますが、LPSはGPとLPとで構成されています。
・LPSの業務は、GPが執行し、複数のGPが存在する場合はその過半数をもって業務執行を決定します。
・LPSでは公認会計士または監査法人の監査が必須です。
5.LPSを利用するメリット
高度な技術や付加価値のある未上場の会社に投資を行う投資会社あるいは投資ファンドであるベンチャーキャピタル(以下、VC)の多くは、LPSを組成してファンド運営をします。それにはいくつか理由があります。
5.1 無限責任の重さ
VCの多くは、法人から出資を募りますが、出資を行う側からすれば、VCへの投資に対して無限責任を負うことは難しいと考えられます。
上記4.3の通り、LPSはGPとLPで構成されており、業務執行を行う一方で無限責任を負うGPと、出資額までの有限責任を負うLPが分けられていることで出資が募りやすくなります。
5.2 パススルー課税
LPS自身が納税主体とならずに各組合員が課税主体となるパススルー課税が適用されており、スキームによっては税制面でのメリットが受けられる可能性があります。
5.3 適格機関投資家
ファンドが投資事業を行うためには、原則として金融商品取引法上の第二種金融商品取引業と投資運用業の登録が必要となります。これは手間のかかる手続を行うだけでなく多額のコストがかかります。
しかしながら、LPSにおいては例外的に「適格機関投資家等特例業務の届出」を行うことで、第二種金融商品取引業と投資運用業の登録をすることなく、出資と投資運用を行うことが可能となります。
5.4 登記や監査が義務付けられている
LPSは登記や監査を受けることなどが求められており、これらは手間とコストがかかりますが、他方で投資家からの信用を得ることができます。