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2020.6.1 財務分析

労働分配率

東京都は、5月29日に休業要請をしていました商業施設や映画館などの営業の再開を6月から認めることとしました。都は活動再開のためのロードマップを策定して、感染状況を見ながらステップ0~ステップ3まで徐々に緩和をして段階的に社会活動の再開を目指しています。

陽性者の数はゴールデンウイーク頃に比べてかなりの減少となっていますが、「さあ安心して仕事が出来るゾ」というものでは当然ありません。多くの方が第2波、第3波はあるだろうと予測していると思います。
そのような中でも経営者は事業を行っていかなければなりません。

1.労働分配率を知る

今般のコロナ禍はあらゆる面に対し未曽有の事態を引き起こし、とりわけ中小企業には大きなダメージを与え、多くの経営者は存続のため資金繰りをどう維持していくかを検討しているかと思います。
売上が急激に落ち込み資金の流入が乏しくなっているのに、必要経費、とりわけ状況如何を問わず一定額の支出を伴う固定費は、大きな負担となります。

とは言え、人件費は従業員の生活の糧ですから、そう簡単に減らせるものではありません。
政府も雇用調整助成金制度を設けて支援をしていますが、それでも十分と言えるほどではないでしょう。

では、会社にとって人件費はどのくらい重荷になっているのか。資金繰りが厳しい状態なのはわかっているが借入以外に何かできることは無いのか。
待ったなしの現況において自社がどういう状況にあるのかをきちんと把握をし、コロナが収束した後に落ち込んだ分を取り戻すためにも検討しておくことはとても重要です。
しかしながら、経営者の多くは人件費が大きな負担となっていることはわかっていても、意外なほどにきちんと分析をされていません。
その結果、極端なリストラを断行し、有用な人材が辞めてしまうなどといったことも生じています。

そこで、労働分配率と呼ばれる人件費に関する指標を改めてきちんと把握をし、今後を踏まえて対策を検討しておきましょう。

 

2.労働分配率とは

労働分配率とは、会社(事業)が生み出した付加価値のうち人件費としてどれだけ分配したかを示す指標です。ここでいう「付加価値」は、売上から原価を差し引いた売上総利益(いわゆる粗利)、サービス業の場合でいえは売上から外注費などの変動費を控除した利益だとお考え下さい。
労働分配率が高いということは、利益の多くを従業員に還元したことになります。

 
【労働分配率】
(売上高ー原価)÷人件費 (↑ほど従業員に還元)

 

3.同業比較・時系列比較

計算の仕方は上記の通りで難しくはありませんので、自社の労働分配率がどのくらいなのかを知っておきましょう。
その際、同業社がどの程度なのかという他社比較と、過去と比べて現在はどうなのかという時系列比較をしてみるとよいと思います。
もちろん唯一の数値などありませんが、経営戦略を立てるにあたり人件費を検討することは必須ですから、その際に具体的な数値を持っていることは有用です。

時系列比較は過去の決算書などを用いればできますのでそれほど手間ではないと思いますが、他社比較のためには比較対象のデータを入手しなければなりません。
具体的な会社ごとというわけにはなかなかいきませんが、TKC会員に発行している中小企業の経営指標集(通称BAST)や、社団法人中小企業診断協会が研究活動を目的に作成した財務指標などで業種ごとの財務データが掲載されていますので、是非参考にしてみてください。中小企業診断協会は、城南支部が中小企業庁 「中小企業実態基本調査報告書(速報)」 を元に作成した財務指標をネット上で公開しています。

中小企業の財務指標

 

4.分析をする

自社の労働分配率を算出してみていかがでしょうか。同業者に比べて高い?低い?
もし、高ければ利益の多くを従業員に還元したことを意味しています。それはなぜなのか?単純に給与が高いのか、それとも他に原因があるのか。徹底的に分析をしてみてください。付加価値については以下のような指標も使用されたりします(策に溺れるような分析はお勧めしませんが)。

【主な付加価値分析指標】
・労働生産性    :付加価値÷従業者数
・資本生産性    :付加価値÷総資本
・1人あたり人件費:人件費÷従業者数

ただし、人件費の支払先が「人」である以上、そう簡単に下げることはできませんのでくれぐれも留意してください。
中小企業の財務に携わってきていますと、それほど検討もしていない(と思われる)のに人件費をカットしたり、リストラをして入退社が頻繁に行われる会社をいくつも見てきました。その結果、従業員のモチベーションが下がり、まじめな人がより忙しく、そうでもない人がより懈怠するという、負の循環が起きてしまったりしています。

大事なことは労働分配率を下げることではなく、利益を上げてキャッシュを潤沢にすることです。そのためには従業員に人件費という投資をし、それに応じたパフォーマンスを出してもらわなければなりません。今の労働分配率が高かったとしても、パフォーマンスを上げることで利益が捻出され、結果として労働分配率は下がります。

 

5.重要なのは「率」ではなく「額」

売上ではなく粗利を大きくすることを考えましょう。無理な値引きをして売り上げを上げても労働分配率は下がりませんし、利益も出ません。手元キャッシュフローにとってもマイナスです。まともな与信審査をせずに無理な営業をかけて売上を上げたとしても貸倒れてしまえば少なくとも原価相当分はマイナスとなります。
たとえば、飲食業であれば材料の見直し、新メニューの開発、在庫の縮小を今一度見直して原価を下げます。理・美容院ならシャンプーやカラーなどの新製品を積極的に使用していくと仕入業者から試供品がたくさんもらえたりします。これらを使用すれば原価を下げることにつながります。
こうした案を従業員から出してもらい、同時に行動してもらってインセンティブを考慮するなどすればモチベーションを高めることになるかもしれません。

本当に大切なのは「率」ではなく「額」です。いくら労働分配率が低くても粗利がゼロなら資金繰りはショートしますよね。従業員の方だって「労働分配率を××にしてほしい」ではなく「××の給料がほしい」と考えます。
労働分配率は自社の経営戦力上、経営者が知っておくべき指標ですが、指標であって目的ではありません。繰り返しになりますが、あくまで利益を追求し、キャッシュフロー重視の経営をしていってください。